期待して採用した外国人社員。でもいざ一緒に働いてみると、コミュニケーションがどうもうまく噛み合わず、戸惑いを感じている現場担当者も少なくないのではないでしょうか。文化や言語の違いに起因するミスコミュニケーションは、本人のやる気や能力とは関係なく起こりうるものです。本記事では、外国人社員の日本語教育に携わってきた講師の視点から、職場でのやりとりを円滑にするために、日本人社員が意識して使いたい「伝わる日本語フレーズ」を厳選してご紹介します。
想像以上に日本語は難しい?!
外国人社員が直面する日本語のハードルは、私たち日本人が想像する以上に高いものです。以下の日本語の3つの特徴を念頭に置くだけでも、外国人社員に対する理解度や接し方が、変わってくるのではないでしょうか。
曖昧さを好む
「やってください」の代わりに「していただけると助かります」
「よくわからない」の代わりに「わからなくもないんだけど」
「多分しません」の代わりに「考えておきます」
このように、はっきり言わないのが日本語の特徴で、ときにそのニュアンスを読み取るのは、日本語母語話者であっても難しいものです。外国人社員にとって日本語は「曖昧な表現が多い」ことをまず認識しましょう。
スピードが速く、省略も多い
もともと日本語は、1秒あたりに発する音節数が多い、世界有数の「話すスピードが速い言語」です。さらに忙しいビジネス現場では、そのスピードがますます速くなる傾向があります。また、語順がしっかり決まっている英語などに比べると、日本語は語順の自由度が非常に高く、その上、文脈で理解できる言葉は省略しがちです。そんな生の日本語を前に、外国人社員が圧倒されてしまうというのはよくある話です。
慣れないビジネス日本語
様々な敬語表現や「手配」「稟議」「取り急ぎ」のようなビジネス用語は、日本語教育の中でも上級レベルで、特にビジネス用語は日本語の教科書でが取り扱われていないこともあります。実際、日本語の試験JLPTの最上位級であるN1保持者からでも「今日も会社で知らない言葉に出会った」という話をよく耳にします。教育機関で長く学んできた外国人社員であっても、「ビジネス日本語の運用には時間がかかる」と認識する必要があります。
日本人社員のための5つの厳選フレーズ
外国人社員にとって「わかりやすい日本語」とは、シンプルで、構造が明確で、行動の指示が具体的なものです。以下の5つのフレーズは、日本人にとっては「ストレートすぎる」と感じる表現かもしれませんが、日本語を「外国語」として学んだ外国人社員にとっては、非常に明確でわかりやすい表現です。ぜひ積極的に活用してみてください。
①これは〇〇さんの仕事です。
ビジネス現場には、仕事の指示だけでなく、進捗の確認、情報の共有、ちょっとした雑談など、様々な人物に関する様々な会話が飛び交っています。そんな中で、自分の仕事を明確に認識するのは、意外と難しいものです。そこで、外国人社員に業務を指示する際は「これは〇〇さんの仕事です」のように、本人の名前を言いながら、はっきりと示すことをおすすめします。
例:「これは李さんの仕事です。水曜日の17時までにお願いします」
②まず、〜をしてください。
外国人社員にとって、初級レベルから馴染みのある「〜してください」という表現は、「〜してもらいたいと思ってるんだけど」などに比べて、非常にわかりやすい表現です。日本人社員の中には、「ストレートで少し強い表現だ」と感じる人もいるかもしれませんが、遠慮なく使って問題ありません。また、外国人社員とのコミュニケーションでは「文は短く!」が鉄則です。日本人は一つの文にあれこれ情報をつめこみがちですが、段階的に伝えるよう心がけてください。
例:「まず、これを20枚コピーしてください。そのあと、会議室に持ってきてください。」
③これからやることを言ってください。
外国人社員は、一見理解しているように見えても、実は細かい部分で誤解していたり、理解が曖昧なことも珍しくありません。そこで「こちらが指示したことを正しく認識できているか、自分の言葉で言ってもらう」というステップを加えることをおすすめします。外国人社員にとっても、これからやることがクリアになれば、動きやすいものです。
例:「〇〇さんの仕事を確認しましょう。これからやることを言ってください。」
④とてもいいです。/これは〇〇がよくないです。〇〇に変えてください。
日本人は評価をストレートに伝えることを避けがちですが、外国人社員にとって、評価がないことや、評価が曖昧でわかりにくいことは、新たな不安を生むことにもつながりかねません。意識的に、簡潔でわかりやすい言葉でフィードバックをするようにしましょう。ポジティブな評価はモチベーションの維持につながりますし、こちらが望むレベルにまで到達していない場合でも、具体的にフィードバックすることで、業務の改善がはかれるでしょう。
例:「この資料、とてもいいです。図がとても見やすいです。」
「このグラフは、少しわかりにくいです。ここに数字を書いてください。」
⑤わからないときは、いつでも質問してください。
ビジネス日本語を指導している学習者からは「周りの先輩社員はいつも忙しそうで、質問しづらい」という声をよく耳にします。日本語力や職場の雰囲気、本人の性格など、要因は様々ですが、外国人社員は私たちが想像する以上に、多くの不安を抱えながら業務に取り組んでいるものです。だからこそ「いつでも質問して」と日常的に声をかけることで、心理的なハードルが下がり、業務のミスや滞りを防ぐことができます。その結果、職場全体の業務も、よりスムーズに進むでしょう。
例:「わからないときはいつでも質問してください。私はいつでも聞きますよ。」
▶あわせて読みたい!外国人社員とのコミュニケーションのコツ
『ハサミ編』 https://gaikoku-jinzai.tcj-education.com/posts/second_language
『ワセダ編』 https://gaikoku-jinzai.tcj-education.com/posts/communication
まとめ
外国人社員の採用は企業にとって大きな成長機会である一方、現場におけるコミュニケーションの難しさは避けて通れないものです。だからこそ、日本人社員が「わかりやすく伝える」姿勢を持ち、外国人社員への言葉を適切に選択することが重要です。今回ご紹介した5つのフレーズは、すぐに現場で活用できる実践的なものばかりです。明日から活用し、コミュニケーションの変化を実感していただければ幸いです。
株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。日本語教育やビジネスマナー研修を提供し、外国人社員がスムーズに職場に適応できるようサポートします。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修を実施し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。また、企業様のニーズに応じた人材紹介を行い、外国人社員の定着と活躍を幅広くサポートします。外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
著者紹介:福田 祥子(日本語教師・ライター)
大手教育系企業で英語講師養成トレーナーとしてキャリアをスタートし、その後広報職に転身。企業内ライターとして新聞コラムや書籍等の執筆を担当。語学好きが高じ、2020年より日本語教師として活動を開始。2022年のスペイン移住後は現地の日本語学校で教鞭を執るほか、TCJプライベート講師や日本語試験問題作成員、執筆業に従事。日本語教師養成講座420時間修了、日本語教育能力検定試験合格。