外国人スタッフに何度説明しても「わかりました」と言うが、動作が違う。そんな場面を繰り返しながら、「自分の伝え方が悪いのか、相手の日本語力が低いのか」と判断できず困っている現場リーダーは少なくありません。
原因のほとんどは、言葉の難易度にある。東京都の調査では、日本在住の外国人の約60%は小学3年生レベルの日本語であれば理解できると報告されています。つまり、言い方を少し変えるだけで、同じ指示が届くようになる。
業務指示・安全確認・日常の声かけの3場面で今日から使える言い換えリスト30選と、職場に定着させるための4ステップを解説する。37年の日本語教育実績を持つTCJグローバルが、現場目線でまとめた。

監修者
登録日本語教員・国家資格キャリアコンサルタント
徳田 淳子
国際交流基金「EPAに基づく日本語予備教育事業」に日本語教師としてインドネシア派遣。外国人政策情報発信プラットフォーム「にほんごぷらっと」編集広報担当。日本語教育隣接領域における研修を主催する「ことばと学びでつながるなかまの会」「ももの会」創設メンバー。国内MBA取得。
2022年5月 日本語教育学会春季大会 口頭発表
秋田美帆・牛窪隆太・徳田淳子「実習生が抱く『職業としての日本語教師』への不安要素―アンケート調査の結果から―」
2024年 「ことばと公共性―言語教育からことばの活動へー」明石書店(共著)
入社時研修だけで日本語教育を終わらせると、現場コミュニケーション不全・安全リスク・早期離職につながります。OJT連動・やさしい日本語・eラーニングを組み合わせた継続支援の実践方法を10ページで解説します。
やさしい日本語とは?今すぐ職場で使える定義と基準
JLPT N4〜N5が基準。小学3年生レベルと覚える
やさしい日本語とは、日本語学習歴が浅い外国人でも理解できるように、語彙・文法の難易度を下げた日本語のことをいう。具体的な目安はJLPT(日本語能力試験)のN4〜N5相当、つまり小学校3年生が読める程度の語彙です。
厚生労働省のデータ(2025年1月発表)によれば、2024年10月末時点の外国人労働者数は過去最高の約260万人に達しました。そのうちの多くはN3〜N5レベルで就労しており、「日本語は話せるが、複雑な指示には対応できない」という外国人スタッフが現場に増えています。
「撤去する」は「取り外す」、「遅延」は「遅れ」、「徹底してください」は「かならずやってください」に変えると、N4レベルの外国人にも届く。難しい言葉に慣れている日本人側が、意識して言葉を選ぶことが出発点になる。
普通の日本語とどこが違うのか
普通の日本語との最大の違いは、あいまいさを排除する点にある。日本語には主語を省いた文、二重否定、婉曲表現が多い。「今日中にやれたらやっといて」という指示は、日本人同士なら暗黙の了解で動けるが、外国人スタッフには「やってもやらなくていい」と聞こえることがある。
やさしい日本語では、主語を必ず入れ、「今日の18時までに提出してください」と期限と行動を1文で言い切る。情報の欠落がないことが、すべての前提になる。文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年)では、1995年の阪神・淡路大震災を機に外国人への情報伝達手段として開発されたという背景も紹介されており、緊急時こそ正確に伝わる言葉が求められることがわかる。
やさしい日本語が職場にもたらす3つの変化
業務指示・安全確認の正確な伝達
業務指示が正確に伝わらない状態が続くと、手直し・やり直しの時間が増え、1人分の作業効率が下がる。製造業や建設業では、安全確認の伝達ミスが直接事故につながるリスクもある。
やさしい日本語を使い始めた職場では、「指示を聞き返す回数が減った」「作業後の確認工程が短くなった」という声が出ています。「伝わった」という手応えが持てると、指示を出すリーダー側のストレスも下がる。
外国人スタッフの早期離職を防ぐ効果
コミュニケーション不全は、外国人スタッフが早期離職する主因の一つだ(厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関する指針」より)。指示が伝わらない、周りと話せない、仕事がうまくできている実感がない——この3つが重なると、スタッフは孤立感を強め、入社半年以内に離職する。
採用費は1人あたり40〜60万円かかる企業も珍しくありません。やさしい日本語を職場の共通言語にすることは、即効性のある定着コスト削減につながる。TCJグローバルで受け入れ支援を担う担当者は、「入社後3ヶ月の現場コミュニケーション密度が定着率を左右する」と指摘する。日本語教師資格を持つスタッフが候補者の口頭能力を厳格にアセスメントしているのも、現場でのミスマッチを入社前に防ぐためです。
指示を出す日本人スタッフの負担が減る
やさしい日本語のルールを身につけると、発言を事前に整理する習慣がつく。「あれ、それ、これ」で指示を出していた人が、「この赤い箱の中に入れてください」と具体的に言えるようになる。外国人スタッフへの伝わり方が改善されるだけでなく、新入社員や高齢スタッフにも届きやすくなるという副次効果がある。
今日から使える場面別 言い換えリスト30選
以下のリストを印刷して、現場に貼っておくだけで日常の指示が変わる。「普通の日本語 → やさしい日本語」の対応表として使ってほしい。
業務指示・作業手順(10例)
| 普通の日本語 | やさしい日本語 |
|---|---|
| 資料を確認してください | この紙を見てください |
| 検討してみて | 考えてみてください |
| 撤去してください | 取り外してください |
| 遅延しています | 遅れています |
| 徹底してください | かならずやってください |
| 修正が必要です | 直してください |
| 対応をお願いします | やってください |
| 承認を取ってから進めて | 上の人に聞いてから、やってください |
| 搬入は明日の朝になります | 荷物は明日の朝に来ます |
| 在庫を確認しておいてください | 今、何個あるか数えておいてください |
安全確認・注意喚起(10例)
| 普通の日本語 | やさしい日本語 |
|---|---|
| 安全帯を着用してください | このベルトをつけてください |
| 立入禁止区域です | この場所に入らないでください |
| 熱中症に注意してください | 暑いです。水を飲んでください |
| 異常を発見したら報告してください | 変だと思ったら、すぐ○○さんに言ってください |
| 危険なので触らないでください | 危ないです。触らないでください |
| 整理整頓を心がけてください | 使った道具を元の場所に戻してください |
| 避難してください | 外に出てください |
| 通路を塞がないでください | この道をふさがないでください |
| 保護具を必ずつけてください | このめがね(手袋)を必ずつけてください |
| 消火器を使用してください | この赤いものを火に向けて使ってください |
日常コミュニケーション・声かけ(10例)
| 普通の日本語 | やさしい日本語 |
|---|---|
| 困ったことがあれば言ってね | 何か問題がありますか? |
| 会議は15時からです | 会議は15時に始まります |
| 欠勤の連絡はどうする? | 休む日は前の夜の8時までに電話してください |
| 残業になりそうです | 今日は○時まで働いてください |
| ご遠慮ください | やめてください |
| 少々お待ちください | 少し待ってください |
| 昼休みが終わります | 12時45分に戻ってきてください |
| ちゃんとやって | ○○を、○○のようにやってください |
| 適切に処理してください | このゴミをこのゴミ箱に入れてください |
| 体調に気をつけてください | 体が悪いときは、すぐ言ってください |
「はさみの法則」3原則で伝わる文を作る
やさしい日本語をゼロから作ろうとすると難しく感じるが、「はさみの法則」の3原則を守るだけで、大半の指示は改善できる。
- は:はっきり言う 主語・目的語を省略しません。「それ」「あれ」を使わず、物・人を具体的に指します
- さ:最後まで言う 「〜だけど」「〜で」で文を途中で止めません。文末まで言い切ります
- み:みじかく言う 1文に盛り込む情報を1つに絞る。目安は1文30〜40字
具体例を見ると、「それ、あとでやっとけばいいけど、一応確認してから進めて」という指示は3原則すべてに違反しています。言い換えると「その書類は、○○さんに確認してから、今日の16時までに提出してください」となる。情報量は同じでも、確実に届く文に変わる。
接続詞(ので、が、けど)でつなぐより、ピリオドで切る習慣をつけると格段に伝わりやすくなる。1文が長くなったと感じたら、「。」で切れるかを先に確認するとよい。
外国人スタッフのコミュニケーション不全が積み重なると、早期離職につながりやすい。定着率を高める4つの仕組みの全体像は、定着支援の4つの仕組みをまとめた資料で確認できます。
やさしい日本語の注意点と失敗パターン
やさしい日本語はシンプルな手法だが、やり方を間違えると逆効果になる。現場でよくある3つの落とし穴を知っておくと、導入後の手戻りが減る。
失敗パターン① 言い換えすぎて情報が欠落する
「安全帯を着用してください」を「このベルトをつけてください」と言い換えるのは適切です。だが「感電の危険があるため、絶縁手袋を必ずつけてから作業してください」を「この手袋をつけてください」に削ると、なぜつける必要があるかの理由が消える。理由がわかると自発的に守れるが、理由がないと「次回はいいや」になりやすい。
この問題を防ぐには
- ・ 言い換えは語彙・文構造を簡単にするものであり、情報量を減らすことではないと意識する
- ・ 重要な理由は「〜です。だから〜してください」と2文に分けて残す
失敗パターン② 一部の人だけが使い、社内標準にならない
リーダーだけが使っていても、他のスタッフが複雑な日本語で指示を出せば効果は半減する。外国人スタッフからすると、誰に何を言われているかで理解度が毎回変わり、混乱が生まれる。
この問題を防ぐには
- ・ チームや部署単位で「この言葉リストを使う」と決め、掲示物にする
- ・ 月1回のミーティングで「うまく伝わった表現」を共有する
失敗パターン③ 「失礼に見える」と使いたがらない
「子供に話すみたいで失礼では」と感じるスタッフが一定数います。この懸念を放置すると、研修後も実際には使われません。
この問題を防ぐには
- ・ やさしい日本語は相手を見下すのではなく「伝わらない責任を受け手に押し付けない」姿勢の表れだと説明する
- ・ セブン-イレブン・ジャパンのようにチェーン全体で公式に使っている事例を紹介し、実用的なコミュニケーション手法だと位置づける
職場にやさしい日本語を定着させる4ステップ
やさしい日本語を1度使って終わりにせず、チームの習慣にするための段階がある。研修2時間程度で基本ルールは習得できるが(aileron日本語教室 2026年実績)、習慣として定着するには現場への組み込み方が重要になる。
Step 1 まず自分だけが3日間試す
いきなり全員に求めず、まず自分が3日間だけやってみる。外国人スタッフの反応が変わる、聞き返しが減るという体感が、次のステップに踏み出す動機になる。「言い方を変えただけで通じた」という経験を先に積むことが、周囲を巻き込むための説得材料にもなる。
Step 2 言い換えリストをチームに配布する
「やさしい日本語を使おう」という呼びかけより、手元に行動の基準があるほうが定着する。本記事の言い換えリスト30選をA4一枚にまとめて印刷し、チームに配布するだけでよい。現場の休憩室に貼っておくと、日常的に目に入る環境ができる。
Step 3 マニュアル・掲示物を書き換える
社内マニュアル・安全掲示・書類のタイトルをやさしい日本語に変える。変えた後は、出入国在留管理庁が無料公開している「やさしい日本語研修教材例」や、Reading Tutor(チュウ太の道具箱)のオンラインツールで難易度チェックをかけると、客観的に判断できる。
Step 4 日本人スタッフ向け研修で習慣にする
2時間程度の研修で基本ルールの習得が十分可能です。TCJグローバルでは、外国人材を受け入れた企業向けに日本語コミュニケーション改善の相談に対応しており、入社後6ヶ月のeラーニングを無料で利用できる仕組みも整えています。業界特化型の現場日本語教育(建築・介護・外食)と組み合わせることで、現場への定着がさらに確実になります。
よくある質問
Q1. やさしい日本語は敬語を使わなくていいですか?
A. 敬語をなくすのではなく、シンプルな丁寧体にとどめるのが基本です。外国人が日本語を学ぶ際は「です・ます(丁寧体)」から始めるため、尊敬語(ご覧になります)や謙譲語(拝見します)は避け、「見てください」「見ました」のような標準的な丁寧体に統一すると伝わりやすい。
Q2. やさしい日本語さえ使えば翻訳アプリは不要ですか?
A. 補完関係にある。書面・規則・労務関係の説明など、正確さが求められる場面では翻訳アプリや多言語対応が有効です。やさしい日本語は日常の口頭コミュニケーション・業務指示・安全確認など、即時性が高い場面に力を発揮する。両方を状況に応じて使い分けるのが現実的な対策です。
Q3. やさしい日本語は外国人スタッフにだけ使えばいいですか?
A. 職場全体で使うほうが効果が高い。新入社員、高齢スタッフ、聴覚に不安を抱える人など、やさしい日本語が助けになる場面は外国人以外にも多くある。また全員が同じ言語水準で話すと、外国人スタッフが孤立せず、チームの一体感が生まれやすい。
Q4. どのJLPTレベルの外国人スタッフに有効ですか?
A. N3〜N5相当の方に特に有効です。N2以上であれば通常の日本語でもある程度対応できる場合が多いが、N2を持っていてもビジネス上のあいまいな表現は通じないことがある。口頭コミュニケーション能力はスコアと必ずしも一致しないため、実際の会話でどこが聞き取れていないかを確認しながら調整するのが望ましい。
Q5. やさしい日本語の研修はどこで受けられますか?
A. 出入国在留管理庁が「やさしい日本語研修教材例」を無料公開しており、誰でも自社研修に使える。外部機関(aileron日本語教室など)では2時間程度のオンライン研修で基本ルールを習得できる。TCJグローバルでは、外国人材の受け入れ支援の一環として、日本語コミュニケーション改善の相談にも対応しています。
まとめ
やさしい日本語は、外国人スタッフに「伝える責任」を企業側が引き受ける仕組みです。言い方を変えるだけで、同じ職場の景色が変わる。言い換えリスト30選をプリントして、明日の現場に持ち込んでみてほしい。
定着させるにはリストを配るだけでなく、マニュアルの見直しとチームへの共有が欠かせません。はさみの法則(はっきり・最後まで・みじかく)を意識した指示出しが習慣になった時、外国人スタッフの早期離職という問題は、じわじわと小さくなっていく。
やさしい日本語の職場導入から外国人材の受け入れ体制整備・継続日本語支援まで、外国人採用に関わるお悩みを一気通貫でサポートします。11か国60機関のネットワークを持つTCJに、まずはお気軽にご相談ください。



