外国人労働者を採用するとき、企業が最初に確認するのは在留カードかもしれません。けれども、在留資格を確認できたことと、労働法上の受け入れ体制が整っていることは別問題です。
外国人労働者にも、日本人と同じく労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険などが適用されます。一方で、在留資格によって就ける業務には制限があり、企業には外国人雇用状況の届出義務もあります。
外国人労働者に適用される労働法の基本、在留資格別の就労制限、企業の義務と罰則、採用担当者が確認すべき実務チェックリストまで整理します。

監修者
登録日本語教員・国家資格キャリアコンサルタント
徳田 淳子
国際交流基金「EPAに基づく日本語予備教育事業」に日本語教師としてインドネシア派遣。外国人政策情報発信プラットフォーム「にほんごぷらっと」編集広報担当。日本語教育隣接領域における研修を主催する「ことばと学びでつながるなかまの会」「ももの会」創設メンバー。国内MBA取得。
2022年5月 日本語教育学会春季大会 口頭発表
秋田美帆・牛窪隆太・徳田淳子「実習生が抱く『職業としての日本語教師』への不安要素―アンケート調査の結果から―」
2024年 「ことばと公共性―言語教育からことばの活動へー」明石書店(共著)
特定技能の仕組みから採用フロー・受け入れ費用・注意点まで、12ページに凝縮したガイドブックです。制度理解ゼロからでも、採用の全体像と実務的な手順が一気につかめます。
外国人労働者にも日本の労働法は適用される
外国人労働者を雇用する場合も、労働法の基本は日本人と同じです。採用会議で「まずビザを確認しよう」と話がまとまっても、それだけでは労務確認は終わりません。日本国内の事業場で労働者として働く以上、国籍を理由に労働条件を低く設定することはできません。
厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」でも、外国人労働者に対する適正な労働条件の確保や安全衛生の確保が求められています。採用時の確認は「在留資格」だけで終わらせないほうが現実的です。
国籍による差別的取扱いはできない
「外国人だから給与を低くする」「日本語が不十分だから残業代を払わない」といった運用は認められません。最低賃金、割増賃金、有給休暇、休憩、休日、安全衛生などは、日本人従業員と同じ基準で管理します。
TCJグローバルの給与・労務ナレッジでも、最低賃金以上、時間外・休日・深夜労働の割増賃金、手当や賞与の同等性が基本原則として整理されています。「外国人だから安く雇える」という前提で採用計画を作ると、労務トラブルの原因になります。
| 確認する法律・制度 | 企業が確認すること |
|---|---|
| 労働基準法 | 労働時間、休憩、休日、残業代、有給休暇、解雇手続き |
| 最低賃金法 | 地域別・産業別最低賃金を下回っていないか |
| 労働安全衛生法 | 安全衛生教育、健康診断、危険作業の説明方法 |
| 労災保険 | 業務中・通勤中のけがを国籍に関係なく対象にしているか |
在留資格の確認と労働法対応は別物
在留カードが有効でも、予定している業務に就けるとは限りません。労働法上は雇用できる労働条件でも、入管法上その業務が認められていなければ採用できないケースがあります。
反対に、在留資格上の就労範囲に問題がなくても、労働条件通知や社会保険加入、安全衛生教育が不十分であれば労務管理上のリスクが残ります。外国人雇用では「入管法」と「労働法」を別々に確認する設計が必要です。
採用前に在留資格と業務内容を照合する
外国人労働者の採用前に見るべきなのは、在留資格名、在留期間、就労制限の有無、予定業務の4点です。厚生労働省も、外国人を雇い入れる際には在留資格や在留期間を確認するよう案内しています。
ここでよく起きるのが、「在留カードを見たから問題ない」という判断です。在留カードの確認は入口であり、業務内容との照合まで行って初めて採用判断の材料になります。
在留資格別に見る就労制限
| 在留資格の例 | 就労制限の考え方 | 採用時の確認 |
|---|---|---|
| 永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者 | 原則として就労内容の制限は少ない | 在留期限、氏名、カードの有効性を確認する |
| 技術・人文知識・国際業務 | 専門性と業務内容の関連が必要 | 単純作業中心になっていないか確認する |
| 特定技能 | 分野と業務区分が決まっている | 該当分野、支援体制、雇用条件を確認する |
| 技能実習 | 技能実習計画に沿った活動が前提 | 計画外の業務を任せていないか確認する |
| 留学、家族滞在 | 資格外活動許可が必要 | 許可の有無、時間制限、学業との両立を確認する |
技人国や特定技能は「何を任せるか」まで確認する
「技術・人文知識・国際業務」は、大学等で学んだ内容や実務経験と業務内容の関連が見られます。通訳、海外営業、設計、システム開発などは対象になり得る一方で、単純作業だけを任せる運用は避ける必要があります。
特定技能は、分野と業務区分が決まっている制度です。たとえばドライバー、介護、外食などの採用では、制度上認められた業務と現場で実際に任せる作業が一致しているかの確認が必要です。
留学生アルバイトは時間管理まで見る
留学生や家族滞在の人材をアルバイト採用する場合は、資格外活動許可の有無を確認します。許可があっても、働ける時間には制限があるため、シフト管理が重要です。
複数店舗や複数部署で勤務する場合は、会社側が合計時間を把握できないまま上限を超えることがあります。本人任せではなく、勤務先全体で労働時間を確認する仕組みを作るほうが安全です。
企業が守るべき労務管理の義務
外国人雇用で見落とされやすいのは、書類を用意した後の説明です。労働条件通知書を渡しても、本人が給与控除、締め日、残業代、保険料を理解していなければ、入社後に不信感が生まれます。
初月給与が想定より少なく見える場面は典型です。締め日の関係、社会保険料、税金、寮費控除などを事前に説明していないと、「聞いていた給与と違う」と受け止められることがあります。
労働条件通知と雇用契約
採用時には、賃金、労働時間、休憩、休日、契約期間、就業場所、業務内容などを伝えます。外国人労働者の場合は、本人が理解できる言語や表現で補足することも重要です。
日本語の契約書だけを渡して「サインしたから理解した」と扱うのは危険です。やさしい日本語、母語資料、通訳、説明動画などを組み合わせ、本人に要点を復唱してもらうと理解状況を確認できます。
賃金・労働時間・割増賃金
賃金は最低賃金を下回らないように設定します。時間外労働、休日労働、深夜労働が発生する場合は、割増賃金の支払いが必要です。
外国人労働者に説明するときは、総支給額と手取り額を分けることが先です。給与明細の「控除」が何を意味するのかを説明しておくと、税金や社会保険料に関する誤解を減らせます。
労働法の確認とあわせて、採用後の定着支援も見直したい場合は、「特定技能人材の離職を防ぐ!定着支援ノウハウ(全10ページ)」で面談・教育・生活支援の考え方を確認できます。
社会保険・雇用保険・労災
社会保険や雇用保険は、国籍ではなく勤務条件によって加入要件を確認します。外国人だから加入させない、本人が希望しないから加入しないという判断はできません。
労災保険も同じです。業務中や通勤中のけがは、外国人労働者であっても対象になります。現場で事故が起きたときに本人が申告できるよう、連絡先や報告手順を入社時に伝えておく必要があります。
安全衛生教育と健康診断
安全衛生教育では、「説明した」だけでは足りません。TCJグローバルの受け入れ支援ナレッジでも、「わかりましたか?」と聞くだけでは理解確認にならず、復唱や実演で確認する必要があると整理しています。
危険作業、機械操作、薬剤、食品衛生、車両運転などが含まれる職場では、専門用語をやさしい日本語に置き換える準備も必要です。安全に関わる説明は、日本語力に頼らず、写真・動画・母語補助資料を併用するほうが現実的です。
罰則リスクは不法就労助長と届出漏れに分けて見る
外国人雇用の罰則リスクは、一つにまとめて考えると見落としが出ます。大きく分けると、入管法上の不法就労助長リスクと、雇用対策法上の外国人雇用状況届出のリスクがあります。
採用担当者が管理すべきなのは、本人確認、業務内容の確認、届出、記録の4つです。どれか一つが抜けると、後から確認できない状態になります。
不法就労助長罪につながる場面
不法就労助長罪は、就労できない外国人を働かせた場合や、認められていない活動に従事させた場合などに問題になります。偽造在留カードを見抜けなかった、在留期間を過ぎていた、資格外活動の範囲を超えて働かせていた、といった場面が典型です。
「知らなかった」で済むとは限りません。在留カードの原本確認、在留カード番号の確認、業務内容との照合、確認日と担当者の記録を残す運用が必要です。
外国人雇用状況届出の対象と期限
外国人労働者を雇い入れたとき、または離職したときは、外国人雇用状況の届出が必要です。届出先はハローワークで、氏名、在留資格、在留期間などを届け出ます。
厚生労働省は、届出を怠った場合や虚偽の届出をした場合、30万円以下の罰金の対象になると案内しています。入社時だけでなく、離職時にも届出が必要な点を社内フローに入れておくべきです。
| リスク | 起きやすい場面 | 防止策 |
|---|---|---|
| 不法就労助長 | 在留資格外の業務、期限切れ、偽造カード | 原本確認、番号照会、業務内容の記録 |
| 届出漏れ | 入社時・離職時のハローワーク届出忘れ | 入退社チェックリストに届出欄を入れる |
| 労務違反 | 最低賃金割れ、残業代未払い、保険未加入 | 日本人と同じ基準で賃金・時間・保険を管理する |
内製か外部支援かは説明できる体制で決める
外国人雇用の労務管理は、制度を知っているだけでは運用できません。採用担当者、現場責任者、労務担当者が同じ基準で確認できる体制が必要です。
少人数採用で、在留資格の種類が限られ、社内に外国人雇用の経験者がいる企業であれば内製も可能です。反対に、複数の在留資格を扱う、シフト勤務がある、現場で日本語説明が難しい場合は、外部支援を組み合わせるほうが現実的です。
自社で管理できる企業
自社で管理する場合は、在留資格確認、雇用契約、外国人雇用状況届出、社会保険、労働時間管理、安全衛生教育の担当者を分けずに見える化します。担当者が変わっても同じ確認ができるよう、チェックリストを残すことが前提です。
専門家・支援機関を使うべき企業
外部支援を使うべきなのは、法律の知識がない企業だけではありません。本人への説明、日本語学習、現場OJT、生活相談まで含めて社内だけで回らない企業も対象です。
TCJグローバルでは、日本語教師資格保持者がCan-Doアセスメントを行い、現場で必要な日本語支援を設計します。労務管理そのものを代行するわけではありませんが、本人が労働条件や安全ルールを理解するための日本語支援を組み込めます。
採用担当者向け自己点検チェックリスト
外国人労働者の労務管理は、採用前だけで完結しません。入社後に現場から「この業務も任せてよいのか」と相談されることもあります。入社時、入社後、離職時まで確認項目を分けておくと、抜け漏れを見つけやすくなります。
| タイミング | 確認項目 | 残す記録 |
|---|---|---|
| 採用前 | 在留資格、在留期間、就労制限、予定業務 | 確認日、担当者、業務内容メモ |
| 入社時 | 労働条件通知、雇用契約、給与控除、保険加入 | 説明資料、署名、復唱確認メモ |
| 入社後 | 労働時間、残業、シフト、健康診断、安全衛生教育 | 勤怠記録、教育記録、面談記録 |
| 離職時 | 外国人雇用状況届出、退職手続き、貸与物返却 | 届出控え、退職書類、連絡履歴 |
チェックリストは、採用担当者だけで持つものではありません。現場責任者、労務担当者、登録支援機関、監理団体など関係者がいる場合は、どの項目を誰が確認するかまで決めておく必要があります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 外国人労働者にも労働基準法は適用されますか?
適用されます。日本国内の事業場で労働者として働く場合、国籍に関係なく労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの対象になります。
Q2. 外国人労働者の給与を日本人より低く設定できますか?
国籍を理由に低く設定することはできません。職務内容、責任、経験、勤務条件などに基づく合理的な差はあり得ますが、外国人であることだけを理由に差をつける運用は避ける必要があります。
Q3. 在留カードを確認すれば採用しても問題ありませんか?
在留カードの確認だけでは不十分です。在留資格、在留期間、就労制限、予定業務が一致しているかまで確認します。必要に応じて在留カード番号の確認も行います。
Q4. 外国人雇用状況届出は誰が対象ですか?
外国人労働者を雇い入れたとき、または離職したときに届出が必要です。特別永住者など一部対象外もあるため、届出対象は厚生労働省の案内で確認してください。
Q5. 留学生アルバイトで注意することは何ですか?
資格外活動許可の有無と労働時間の管理です。複数店舗や複数部署で勤務する場合は、合計時間が上限を超えないよう会社側で確認する必要があります。
Q6. 外国人労働者への安全教育は日本語だけで足りますか?
日本語だけで十分とは限りません。危険作業や衛生管理に関わる説明は、やさしい日本語、写真、動画、母語補助資料、復唱、実演を組み合わせて理解確認まで行うほうが現実的です。
まとめ
外国人労働者の労働法対応は、日本人と同じ労働条件を守ることから始まります。ただし、それだけでは足りません。在留資格の就労制限、外国人雇用状況届出、本人が理解できる説明体制まで見る必要があります。
採用前に確認すべき3点
- 在留資格・在留期間・就労制限と予定業務が一致しているか
- 賃金・労働時間・保険・安全衛生を日本人と同じ基準で管理できているか
- 労働条件や安全ルールを本人が理解できる方法で説明できているか
この3点が社内で説明できない場合は、採用前にフローを見直すほうが安全です。労務管理、在留資格、日本語支援を別々に扱わず、現場で運用できる形に落とし込むことが外国人雇用の基本になります。
参考:厚生労働省「外国人の雇用」、厚生労働省「確かめよう労働条件」、出入国在留管理庁 事業主向け資料
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