外国人採用が増える中、採用時には特に問題が見られなかったのに、いざ現場で働き始めると、「報告をしない」「指示と違うやり方で仕事を進める」など、職場内で戸惑いが生じるケースがあります。こうした違和感の多くは、個人の性格やスキルの問題ではなく、実は文化的な価値観の違いが原因であることがよくあります。この記事では、国によって異なる「上司観」や「報連相」への理解を深め、外国人社員がよりスムーズに組織に馴染み、戦力として活躍できるためのヒントをお伝えします。日本の当たり前は、他国での非常識?!「上司からの指示」は、提案の一つ?一般的な日本企業では「上司の指示は絶対」「目上の人には敬語で接する」「決断する前に上司に確認をとる」といった価値観が当たり前とされています。しかし、これは決して世界共通ではありません。国によっては上司と部下の関係はフラットで、上司の意見はあくまで提案に過ぎない、と捉える文化もあります。例えば、外国人社員が上司の指示を「提案の一つ」だと捉え、指示とは異なる自分なりの判断で、タスクを実行してしまうケースがあります。日本人からすれば、これは上司の指示を無視した「勝手な行動」でしかありませんが、外国人社員からすれば、上司からの提案を検討した上でとった「責任ある最善の行動」で、なぜ自分が注意を受けたのか納得できません。このように、個人の裁量が大きい労働文化で働いてきた社員との間には、上司との関係で認識のズレがよく生じます。「報連相」するのは未熟な証拠?日本の新入社員研修の定番のテーマといえば「報・連・相(報告・連絡・相談)」の重要性。しかし、ビジネスマナーの基本とされるこの「報連相」も、国によっては異なる意味を持つことがあります。一般的に個人主義だと言われる欧米諸国ではもちろん、アジア諸国でも「報告や相談を頻繁にするのは、自立しておらず、判断力がない」と見なされることがあります。報連相の文化が当たり前である日本人社員にとっては、報連相があまりに少ないと、「なぜ情報を隠すんだろう」「トラブルが起こった後でしか報告しないとは何ということだ!」と不安や懸念を抱くことがあります。ですが外国人社員からすると、「日本人はマイクロマネジメントすぎる」「頻繁に報告が求められるということは、自分は信頼されていないんだろうか」「トラブルがないから何も言わずに仕事を進めていたのに、なぜ注意を受けるんだろうか」などと、違和感を感じてしまうことがあります。文化の違いを越えて一緒に働くための4つのヒントそれでは、文化の違いを踏まえた上で、外国人社員と気持ちよく働くための4つのヒントを紹介します。① 人前で叱るのは絶対NG!ヒエラルキー型の企業では社員を教育する意味で、上司が部下を他の社員の前で叱ることがあるかもしれません。ですが、これは避けるべき対応です。もちろん、国や個人の差はありますが、アジアの多くの国では人前での叱責を「侮辱だ」と捉え、最悪の場合、退職に至ることもあります。また欧米諸国では、人前で叱責する上司に対して「感情をコントロールできない未熟な人間だ」と判断することもあります。もちろん、業務上、外国人社員に対して、指摘しなければいけないことはあるでしょう。しかしその場合でも、個室で短時間で改善ポイントを伝えるなど、方法を適切に選択する必要があります。② 日本の「上司観」は最初に教える多くの外国人社員にとって、日本人の「上司観」は当たり前ではありません。そこで入社直後にまず研修で、上司や先輩社員との関係の築き方を言語化して伝えるようにしましょう。具体的には「言葉遣い」「挨拶の仕方や頻度」「上司の指示をどのように捉えるか」などを扱うと効果的です。一見丁寧すぎるように見えますが、初期段階で日本の企業文化の大前提を伝えることは、早期離職の防止やコミュニケーション上の誤解を回避することにつながります。③ 「報連相」は具体的な方法まで伝える日本の「報連相」の文化は、外国人社員にとっては新しい概念です。そこで、ただ概念を伝えるだけでなく、具体的な方法まで伝えるようにしましょう。報連相の実施の仕方については、「いつ」「誰に」「何を」「どのように」など5W1Hの観点に落とし込んで捉えると理解しやすいですし、様々なケーススタディを通して、どのように報連相を行うのが理想的であるか考えてみるのも効果的でしょう。また「報連相がない場合に上司はどのように考えるのか」といった別の視点から捉えてみることも、報連相の重要性を理解する助けになるでしょう。④ 外国人社員と日本人社員間のコミュニケーションを促進する具体的なトラブルがなくとも、「上司観」や「報連相」に対する感覚の違いは、社内の不協和音につながりかねません。そこで外国人社員への研修だけでなく、日本人社員と外国人社員が双方で理解し合えるような交流の場を設けるのも良い方法でしょう。昼食会のようなカジュアルな交流の機会はもちろん、テーマを設けて各国の労働文化を発表しあうような社内イベントも、相互理解が深まり、トラブルを未然に防止する良いきっかけになるでしょう。まとめ外国人社員の働き方に違和感を覚えたとき、誰しもが自分の感覚で「どうしてそんなことをするんだろう」と考えてしまいますが、少し立ち止まって、行動の裏にある文化背景を想像することも多国籍チームには重要です。今回扱った「上司観」や「報連相の捉え方」は、国によって大きく異なりますが、相互理解を深める努力をすれば、外国人社員は大きな戦力として成長してくれるはずです。日本企業がグローバルに対応するためにも、文化の違いを尊重したマネジメントが今後ますます求められていくでしょう。株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。日本語教育やビジネスマナー研修を提供し、外国人社員がスムーズに職場に適応できるようサポートします。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修を実施し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。また、企業様のニーズに応じた人材紹介を行い、外国人社員の定着と活躍を幅広くサポートします。外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。著者紹介:福田 祥子(日本語教師・ライター)大手教育系企業で英語講師養成トレーナーとしてキャリアをスタートし、その後広報職に転身。企業内ライターとして新聞コラムや書籍等の執筆を担当。語学好きが高じ、2020年より日本語教師として活動を開始。2022年のスペイン移住後は現地の日本語学校で教鞭を執るほか、TCJプライベート講師や日本語試験問題作成員、執筆業に従事。日本語教師養成講座420時間修了、日本語教育能力検定試験合格。