国内の労働者不足の影響もあり、多くの企業が外国人社員の採用を進めています。しかし、採用後に直面する大きな課題のひとつが、外国人社員の「日本語力」。その中でも、ビジネスメールや報告書を作成する際に必要な「書く」力の不足に、頭を悩ませている教育担当者も少なくないことでしょう。この記事では、日本語教育の観点から、外国人社員の「書く」力を向上させるための具体的な方法をお伝えします。
なぜ日本語が書けない?原因を分析する
漢字に苦手意識が強い
特に非漢字圏出身者にとって、漢字は文書作成の上で最大の難関。手書きの機会が少なくなったとは言え、「回答します」と「解答します」など、同音異義語から適切な言葉を選ぶのは簡単なことではありません。また漢字が難しいため、ひらがなで書こうとすることがあるかもしれませんが、ビジネス文書としては不適切なこともあります。
適切な語彙が選べない
外国人社員は時として、日本人でもあまり使わないような難しい語彙を使って、こちらを驚かせてしまうことがあります。これは、辞書や翻訳ツールを使って直訳したことが原因であることが多いです。また反対に、ビジネス文書にそぐわない聞き慣れた口語表現を使ってしまうケースもあります。
敬語が怖い
敬語表現も、外国人社員にとって大きなハードルの一つです。特に、相手の行動に対して使う「尊敬語」と自分の行動に対して使う「謙譲語」を誤って使うケースがよく見られます。例えば「ご覧になる」と書くべきシーンで、「拝見する」を使ってしまい、不適切な文書になっているケースがあります。
ビジネス文書の書き方がわからない
外国人社員の多くは、ビジネス文書のフォーマットや書き方を学んだことがありません。社内の報告書であるにも関わらず、お客様へのメールのようなトーンで書いてしまうのが、その例です。さらに、文法的には誤りがなくても、一文が長すぎたり、構造が分かりにくい文章を書くことも少なくありません。
文法や語彙は勉強したが、書くトレーニングはしてこなかった
日本語能力試験(JLPT)は「読む・聞く」能力を測る試験ですが、文を「書く」力を直接評価する項目はありません。そのため、JLPTの上位級の語彙や文法を知っているにも関わらず、文書としてアウトプットするスキルが不足していることがよくあります。
外国人社員の「書く力」の伸ばし方
文の書き方の基本を教える
基本的な文書作成の方法を指導することが大切です。特に以下の3つは重要です。
- 一つ一つの文を短くする
- 「です・ます調」か「である調」かを統一する
- 主語と述語を明確にし、ねじれ文になっていないかを確認する
3つ目の「ねじれ文」とは、主語と述語がずれた文のこと。例えば「チームの目標は、○○の達成です」とすべきところを「チームの目標は、○○を達成したいです」と書いている文です。日頃から、文書作成のポイントを意識することで、読み手に伝わる文が徐々に書けるようになるでしょう。
現場で使う定型表現をインプットする
ビジネスシーンで頻繁に使われる表現やフレーズをリストアップし、実際の業務で活用できるように指導しましょう。「お世話になっております」「以上、よろしくお願いいたします」などは、その代表格。使える定型表現が増えることで、スムーズに文章が書けるようになります。
フィードバックのある環境で書く練習をする
書く力を向上させるには、フィードバックを受けながら実践的に書く練習をすることも重要です。教育担当の社員が添削指導を行うことはもちろん、ビジネス文書の指導に慣れた日本語教師による個人レッスンも有意義でしょう。外国人社員は、現場でミスを繰り返すと自信をなくしやすいですが、業務外で繰り返し書く練習をすれば、自信を持って適切な文章を書けるようになるでしょう。
まとめ
外国人社員の「書く」力を向上させるには、単に日本語を学ぶだけでなく、実践的なトレーニングを継続して行うことが必要です。そのために企業側には、外国人社員がトライアンドエラーの中で日本語を安心して使える環境を整え、継続的にサポートしていくことが求められます。適切に書く力を身につけることで、外国人社員の業務効率も格段に向上することでしょう。
株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。 日本語教育やビジネスマナー研修を提供し、外国人社員がスムーズに職場に適応できるようサポートします。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修を実施し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。また、企業様のニーズに応じた人材紹介を行い、外国人社員の定着と活躍を幅広くサポートします。外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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著者紹介:福田 祥子(日本語教師・ライター)
大手教育系企業で英語講師養成トレーナーとしてキャリアをスタートし、その後広報職に転身。企業内ライターとして新聞コラムや書籍等の執筆を担当。語学好きが高じ、2020年より日本語教師として活動を開始。2022年のスペイン移住後は現地の日本語学校で教鞭を執るほか、TCJプライベート講師や日本語試験問題作成員、執筆業に従事。日本語教師養成講座420時間修了、日本語教育能力検定試験合格。