国内の労働力不足を背景に、日に日に増える外国人社員。言語の壁は理解していながらも、コミュニケーションがスムーズに進まないと、もどかしさを感じてしまう現場担当者も少なくないことでしょう。その解決の第一歩として「日本語でどう話せばいいか」を明確に教えることは非常に有効です。本記事では、前回の「日本人社員がまず使うべき厳選フレーズ5選」に引き続き、コミュニケーションを円滑にするための「外国人社員に新人研修で教えたい日本語フレーズ5選」を、日本語教育の視点からご紹介します。
使ってほしい日本語は、最初に教える

母国で熱心に日本語を学習してきた外国人社員であっても、日本の労働環境で日本語を使ったことがなければ、それは「知識」でしかありません。基本的な日本語から教えなければならない、と捉えると少し重荷に感じられるかもしれませんが、会社で使うべき日本語を最初に教えることは、実は多くのメリットがあるのです。
外国人社員の不安を取り除ける
ビジネス日本語をほとんど使ったことがない外国人社員は、自分の言葉遣いは正しいか、失礼ではないか、逆に丁寧すぎではないか、といった不安を常に抱えています。ビジネス日本語のレッスンをしていても、日本語として何の問題もない場合ですら、「今の日本語は本当に大丈夫でしたか?」と尋ねてくる学習者は少なくありません。現場で使うべき適切なフレーズを最初に学ぶことができれば、自信を持って仕事に取り組めるようになるでしょう。
言葉を通して日本の職場文化を教えられる
現場で使うべき表現を学ぶことは、単に言語知識を習得するだけでなく、企業が大切にしている価値観を言葉を通して学ぶことでもあります。例えば「念の為、確認ですが…」というフレーズ。これは、確認する際にどのような言葉を使えば良いのか、ということ以上に、日本の職場では「確認を丁寧に行うことが大切である」という職場文化を学ぶ第一歩になるでしょう。
外国人社員への誤解を防げる
慣れない日本語を話す際、文法や表現に誤りが生じてしまうことは普通です。ですがその際、日本人社員は、わかってはいながらも「稚拙な話し方」=「ビジネスマナーがない」と直感的に誤解してしまうことがあります。だからこそ、相手との関係構築に役立つ言い回しを最初にインプットすることは有益なのです。ビジネスシーンにふさわしい洗練された日本語の習得は一朝一夕ではできませんが、誤解を生まないための下地作りは、最初の新人研修だけでも十分可能です。
外国人社員にまず教えたい5つの厳選フレーズ
ここでは、日本語初中級者向け、汎用性が高い最初に教えたい5つのフレーズをご紹介します。
① 基本の挨拶
「よろしくお願いいたします。」
この一言は、自己紹介の際はもちろん、依頼時など多くの場面で使えます。日本の職場文化では、この一言があるだけで「丁寧さ」と「協力する姿勢」が伝わるため、最初に覚えるべきフレーズの代表格です。外国人社員も当然知っているフレーズですが、どのタイミングで使用すべきかは、理解していないケースがありますので、具体的に使用場面も教えましょう。
② 声をかけるとき
「すみません、今少しお時間よろしいでしょうか。」
話しかける際の第一声として非常に重要な一言です。いきなり要件に入るのではなく、相手の状況を気遣う姿勢を示すこの言い回しは、日本の「和を重んじる」文化を体現する表現とも言えるでしょう。また外国人社員は、仕事に慣れないうちは、疑問点があるにもかからわず、うまく切り出せずにいることがあります。業務遂行を円滑にするためにも、有効なフレーズでしょう。
③ 依頼する
「〜ていただけませんか。」
日本語の教科書では「〜てください」「〜てもらえませんか」など、様々な依頼表現を学びますが、ビジネスの現場でどの表現を使うべきかは、理解していないケースもあります。先輩社員に対して「確認してください」は文法的には正しくても、敬意を込めて依頼する姿勢が求められる日本の職場では、あまり適切ではありません。依頼する際は「〜ていただけませんか」とインプットしてしまいましょう。
④ 許可を求める
「〜てもよろしいでしょうか。」
「〜てもいいですか」でも、文法的には誤りではありませんが、やはり会社では「〜てもよろしいでしょうか」という丁寧な表現の方が望まれます。日本の職場では何かを始める前に、上司や同僚の許可を得るという文化が根付いており、それを認識する意味でも、最初に教えたい表現の一つです。
⑤ 確認する
「念のため、確認ですが、〜ということでよろしいでしょうか。」
外国人社員は時として、指示された内容をよく理解できていないにもかかわらず、日本語でどう確認すればよいかわからず、確認自体をしないことがあります。このフレーズは、そういった確認不足を防ぐためにうってつけのフレーズ。少しでも疑問や不安を感じた場合は、この表現を使って、タイムリーに確認するよう教えましょう。
まとめ
今回ご紹介した5つのフレーズは、日本語が初中級レベルの方でも使いやすく、かつビジネスマナーを備えた表現です。外国人社員の日本語力の不足は決して「能力の不足」ではありませんし、最初に適切な表現を知り、自信を持ってコミュニケーションができれば、その後の成長スピードや社内の信頼構築に大きな差が出ることは間違いありません。これらの表現を新人研修などに取り入れることで、職場のコミュニケーションの質向上につなげていただけると幸いです。
株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。日本語教育やビジネスマナー研修を提供し、外国人社員がスムーズに職場に適応できるようサポートします。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修を実施し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
著者紹介:福田 祥子(日本語教師・ライター)
大手教育系企業で英語講師養成トレーナーとしてキャリアをスタートし、その後広報職に転身。企業内ライターとして新聞コラムや書籍等の執筆を担当。語学好きが高じ、2020年より日本語教師として活動を開始。2022年のスペイン移住後は現地の日本語学校で教鞭を執るほか、TCJプライベート講師や日本語試験問題作成員、執筆業に従事。日本語教師養成講座420時間修了、日本語教育能力検定試験合格。