国内の労働者不足の影響を受け、多くの企業が外国人社員の採用を進めています。その際、重要となるのが日本語力の見極めで、採用基準として「日本語能力試験(JLPT)」を活用している企業も多いでしょう。しかし、JLPTの上位級であるN1やN2を取得しているにもかかわらず、実際の職場でのコミュニケーションに苦労している外国人社員は少なくありません。本記事では、日本語教育の観点から、JLPTの弱点を理解し、人事が独自に実施すべき日本語力の具体的な測定方法について解説します。
日本語能力試験(JLPT)の弱みを知る
日本語能力試験(JLPT:Japanese-Language Proficiency Test)は、世界中で受験者が多く、日本語力を測る指標として広く認知されています。しかし、企業が採用基準として活用する場合には、いくつかの注意点があります。
「話す」「書く」能力は問われない
JLPTでは「読む」「聞く」能力を測ることができますが、「話す」「書く」能力は試験内容に含まれていません。そのため、JLPTの級が高くても、適切なビジネスメールを書けなかったり、敬語がうまく使えず口頭でのコミュニケーションに苦労したりするケースが少なくありません。
ビジネスに特化したテストではない
公式ホームページによると、JLPTでは①日本語の文字や語彙、文法についてどのぐらい知っているか、②その知識を利用してコミュニケーション上の課題を遂行できるかについて測る、とあります。言い換えれば、日本のビジネスシーンで使う日本語に特化しているわけではないため、実務で求められる日本語力を判断するには不十分な面があります。
5割〜6割の得点率でも合格
JLPTはN2で約50%(180点中90点)、N1で約56%(180点中100点)の得点率で合格となります。またN3以上の試験には「文字・語彙・文法」「読解」「聴解」という3つの区分があり、それぞれの区分で、各60点満点中19点以上取得しなければならないという基準があります。これは見方を変えると、聞き取りが苦手で聴解問題は3分の2も間違えてしまったけれど合格できた、ということも起こり得るということです。
(参考)https://www.jlpt.jp/guideline/results.html
▶︎日本語能力試験の概要をもっと確認したい方はこちら https://gaikoku-jinzai.tcj-education.com/posts/JLPT
人事が考えるべき日本語力の測定方法
採用後に後悔しないためには、JLPTの結果を踏まえながらも、自社で独自に、実務に必要な具体的な日本語能力を測る必要があります。以下のようなチェックを取り入れることで、より実践的な日本語力を測ることができるでしょう。
口頭指示の理解力チェック
上司や同僚からの口頭指示を正しく理解できる能力を測ります。
- 方法:業務指示を口頭で伝え、その内容を正しく復唱、または実行できるか確認します。
- ポイント:実際の現場で使われているような主語や目的語などが省略された自然な表現を使うことが重要です。単に日本語を聞き取る能力だけでなく、指示内容を瞬時に理解できるかを見極められるでしょう。
ビジネス文書の読解力チェック
マニュアルやメールなどを正しく理解できる能力を測ります。
- 方法:実際に使用している社内文書やメールを提示し要約させます。
- ポイント:一般論で答えられないような文書を選ぶことが大切です。顧客業務に関わる社員を採用する場合は、クレームに関するメールを使用し、要約だけでなく、どのように対応するかを問えば、問題処理能力も測れます。
ビジネス文書の作成力チェック
ビジネスメールや報告書などが書ける能力を測ります。
- 方法:具体的なテーマを設定し、決められた時間内で文書を書かせます。
- ポイント:「取引先への依頼メール」など、敬語表現や適切なフォーマットの使用が求められるテーマを設定することが重要です。例えば「訪問のアポイントを、同席予定の自分の上司の都合で変更してもらいたい場合のメール」といったテーマであれば、適切な敬語使用、ウチソトの概念の理解まで正しく測れるでしょう。
口頭での受け答え力チェック
社内外で求められる口頭でのコミュニケーション能力を測ります。
- 方法:業務を想定した模擬会話を実施します。
- ポイント:流暢さを確認するのはもちろん、「取引先への提案」「トラブルがあった場合の上司への相談」といった具体的なテーマを設定し、立場が違う人に対して、適切に敬語表現が使用できているかを確認すると良いでしょう。
日本の職場文化の理解度チェック
日本の職場文化やマナーを理解しているかを評価します。
- 方法:具体的な状況を提示し「この場合、あなたならどうしますか」と尋ねます。
- ポイント:「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」や「時間厳守の重要性」といった理解していなければトラブルになりうるテーマが適しています。前述した文書作成や口頭でのやりとりチェック時に、これらのテーマを盛り込むのも良いでしょう。
まとめ
外国人社員を採用する際、JLPTの結果と共に、企業が独自の日本語能力のチェックを行い、適切な人材の見極めを行うことは欠かせません。またその一方で、日本で働いたことのない外国人に対して、最初から完璧さを求めるのは難しく、採用時の日本語能力チェックを採用後の人材育成に活かす、という視点を持つことも大切でしょう。
株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。 日本語教育やビジネスマナー研修を提供し、外国人社員がスムーズに職場に適応できるようサポートします。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修を実施し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。また、企業様のニーズに応じた人材紹介を行い、外国人社員の定着と活躍を幅広くサポートします。外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
著者紹介:福田 祥子(日本語教師・ライター)
大手教育系企業で英語講師養成トレーナーとしてキャリアをスタートし、その後広報職に転身。企業内ライターとして新聞コラムや書籍等の執筆を担当。語学好きが高じ、2020年より日本語教師として活動を開始。2022年のスペイン移住後は現地の日本語学校で教鞭を執るほか、TCJプライベート講師や日本語試験問題作成員、執筆業に従事。日本語教師養成講座420時間修了、日本語教育能力検定試験合格。