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“なぜ”を伝えると変わる!外国人社員に伝わる“日本のビジネスマナー”の教え方(後編)

“なぜ”を伝えると変わる!外国人社員に伝わる“日本のビジネスマナー”の教え方(後編)

前編のおさらい|なぜ外国人社員にマナーが伝わらないのか

前編では、外国人社員に日本のビジネスマナーがうまく伝わらない背景に、文化の違いがあることをお伝えしました。

前編をチェック>“なぜ”を伝えると変わる!外国人社員に伝わる“日本のビジネスマナー”の教え方(前編)

名刺交換やお辞儀の形式、お断りの際の遠回しな表現など、日本人にとっては当たり前のマナーも、他国の文化では意味が見えづらく、戸惑いや誤解を生むことがあります。日本のマナーの多くには、形式に意味があり、相手との関係性を重視するといった価値観が根底にあります。そのため、単にルールとして伝えるだけではなく、“なぜそうするのか”という背景を共有することが大切です。

後編では、こうした文化的背景を踏まえたうえで、どう伝えれば理解と納得が得られるのか、実際の成功事例とあわせてご紹介していきます。

3. どう伝える?外国人社員に“伝わる”指導のポイント

外国人社員にビジネスマナーを伝える際は、「こうしなさい」とルールを教えるだけでは、なかなか行動にはつながりません。
重要なのは、相手が納得し、自らの行動として取り入れられるように伝えることです。

以下の3つのステップが、その鍵になります。

ポイント①背景に軽くふれる

マナーの「型」を教えるだけでなく、簡単にでも「なぜそうするのか」という理由を添えて伝えましょう。

たとえば、
「名刺を両手で受け取るのは、相手を尊重していることを表すためです」
「“難しいですね”はやんわりと断る表現です」
と一言加えるだけでも、相手の納得感が変わります。

ポイント②自国との違いを共有し合う

日本独自のマナーを理解してもらうには、相手の文化との違いに気づいてもらうことが効果的です。そのためには、受け入れ企業側が、
・その社員の出身国ではどういったマナーが一般的かを事前に調べる
・本人と「どう違うか」を対話する機会を設ける
ことが有効です。

たとえば、
「日本では“上司より先に帰る”ことに遠慮する場面がありますが、あなたの国ではどうですか?」
「日本では名刺の扱いに細かい決まりがありますが、そちらではどうでしょう?」
といった問いかけを通じて、「文化の違いをお互いに認識」した上で、日本の文化を紹介することで、押しつけにならず、スムーズに受け入れられやすくなります。

ポイント③実践を通じて“体感”してもらう

説明だけでは伝わりにくいことも、実際にやってみることで理解が深まることがあります。

・名刺交換のロールプレイ
・ビジネスシーンの会話を演じてみる
・NG例とOK例の動画を比較してみる など

特に身体で覚えるマナー(お辞儀や名刺の扱い方など)は、「見て学ぶ・やってみる」機会があることで習得が早まります。

4. 背景を伝えたことで変わった!現場の成功事例

事例①:「名刺を渡すのは、ただの手続きじゃなかった」

製薬会社に新しく入社したベトナム出身の社員は、営業同行の初日、クライアントに名刺を片手で渡し、すぐに会話に入ってしまいました。帰社後、上司が注意すると、彼は戸惑いながらこう言いました。

「名刺はただの連絡先ですし、会話の方が大事だと思っていました」


そこで教育担当者は、名刺が日本では「その人自身を象徴するもの」とされ、受け取り方一つで相手の印象が大きく変わることを説明しました。

「名刺を丁寧に扱うのは、相手そのものを大切にしているというメッセージなんです」

すると、彼の表情が変わり、こう返しました。

「そんな意味があったんですね。僕はずっと“日本のマナーは細かくて堅苦しい”と思っていたけれど、そういう考えなら理解できます。次から気をつけます」

翌週の営業訪問では、彼は誰よりも丁寧に名刺を差し出し、先方から「とても礼儀正しい印象だった」と評価されました。

事例②:「“難しいです”は“ダメです”の意味だったなんて…」

あるIT企業で働くインド出身のエンジニアは、日本人マネージャーに「この仕様変更は難しいですね」と言われたのを「できるけど、少し時間がかかる」と解釈して作業を進めてしまいました。
しかし、後日「なぜ勝手に進めたのか」と指摘を受け、大きな誤解が生まれてしまいました。

その後の1on1面談で、マネージャーが丁寧に背景を説明しました。

「日本では“NO”と言いにくい文化があるので、あえて“難しい”とか“検討します”という表現でやんわり断ることが多いんです」

彼は驚きつつも納得し、こう語りました。

「文化が違えば言葉の裏にある意味も変わるんですね。自分が悪いわけじゃなかったことがわかって、ホッとしました」

その後、同僚にも自らこの文化を説明するようになり、チーム内での認識共有にもつながっていきました。

事例③:「帰りたいけど帰れない」“空気”の正体がわかった日

サービス業で働くネパール人のスタッフは、勤務終了時刻になっても、なぜか他のスタッフがすぐに帰らず、なんとなく自分も残ってしまうことに強いストレスを感じていました。
「帰ってはいけない空気があって、でも何が正解かわからない。居心地が悪いんです」と悩みを打ち明けたとき、担当者はこう説明しました。

「日本では“上司より先に帰るのは失礼”と感じる人もいます。でも本来は、そういう雰囲気を“察する”文化があるだけで、あなたが悪いわけではないんですよ。だから、“今日はお先に失礼します”と一言伝えれば、全く問題ありません」


その言葉を聞いて彼は涙ぐみながら言いました。

「やっと理由がわかりました。怒られそうで怖かったけど、ちゃんと話してくれて安心しました」


以後、彼は自信をもって「お先に失礼します」と言えるようになり、表情にも余裕が出てきました。

これらの事例に共通するのは、「行動だけでなく背景を伝えたことで、本人の理解と納得が深まり、行動が変わった」という点です。文化を伝えることは、指導の負担を減らすだけでなく、相手の自己肯定感や安心感を育て、信頼関係を築く第一歩にもなるのです。

事例④:「服装は自由でも、何でもいいわけじゃない」

都内のオフィスで働くインド出身の社員は、仕事に対して非常に真面目で成果も出していましたが、ある日、上司から「少し服装を見直してほしい」と声をかけられました。その日、彼が着ていたのはノーネクタイに少しカジュアルなシャツ、明るめの靴。彼にとっては「きちんと感のあるビジネスカジュアル」のつもりでした。指摘を受けた彼は少し戸惑いながら言いました。

「最近はクールビズでノーネクタイが当たり前だと聞きましたし、スーツにも少し自分らしさを出してはいけないんですか?」

上司はただの注意ではなく、背景を説明することにしました。

「確かに日本でも夏場はノーネクタイが一般的になってきました。でも、“ビジネスの場ではジャケットスタイルが基本”という感覚は根強く残っています。また、服装に個性が出すぎると、“公私の区別がついていない”という印象を与えることもあるんです。」

彼は少し驚いた表情を浮かべた後、納得したようにこう言いました。

「なるほど、日本では“自分らしさ”より“場に合っているか”が大事なんですね。」

その後、彼はTPOを意識したシンプルなスタイルに切り替え、「日本ではその方が信頼感を得られるなら、それを優先したい」と話していました。

5. まとめ|マナー教育を“異文化理解”の場に

外国人社員へのマナー指導に悩む企業は少なくありません。
ですが、「なぜできないのか」ではなく、「なぜ伝わらないのか」に目を向けることで、アプローチは大きく変わります。

日本のビジネスマナーの多くは、単なるルールではなく、日本特有の価値観や文化に根ざしたものです。名刺交換やお辞儀、遠回しな表現や沈黙には、それぞれ「相手への配慮や敬意を表す意味」があります。その“意味”を伝えることで、マナーはただの形式ではなく、「人と人をつなぐコミュニケーションのツール」になります。そして、背景を共有することは、マナー指導を超えて、「異文化を尊重し合えるチームづくりの第一歩」にもなります。

これからの時代、外国人社員とともに働くことは特別なことではなくなっていきます。
だからこそ、マナー教育を“押しつけ”ではなく“理解し合う機会”として見直すことで、
より強い組織、より信頼に満ちた職場が生まれるはずです。

株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。また、外国人社員がスムーズに職場に適応できるよう、日本人社員向けの異文化理解ややさしい日本語の研修等を通し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。 外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

著者紹介:平良 園佳(日本語教師)
日本で活躍する外国人向けに、初級からビジネス日本語まで対応したレッスンを通じて、実践的な日本語スキル習得をサポートしている。

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記事を書いた人

外国人材TIME編集部