現在、すでに多くの介護施設が外国人介護士を受け入れていますが、今後受け入れを検討したいとする施設も増えています。今回は、外国人介護士が施設での仕事をスタートさせた後にどのような教育を受けるのか、あるいは受ける必要が生じているのか、その実情について制度ごとに解説し、最後に今後の課題について考えていきたいと思います。
EPA
EPA介護福祉士候補者の受け入れ施設は、JICWELS(公益社団法人国際厚生事業団)の監理のもと、日本語教育および介護福祉士国家試験へ向けた受験対策を計画的に実施することになります。国家試験対策に関する学習計画や使用テキストなどはJICWELSが提供し、受け入れ施設はその実施状況を定期的にJICWELSに報告します。日本語教育については、教育提供者(施設職員や外部講師)が詳細を決めることになります。
候補者へ提供する日本語教育および介護福祉士国家試験へ向けた受験対策については、施設の職員が実施することもできますし、外部の教育機関や講師に委託することもできます。
| OJT | Off-JT | |
|---|---|---|
| 実施者 | 職員 | 外部教育機関・講師 |
| 実施場所 | 就労しながら実施 | 外部講師が施設内/外で実施 |
| 実施時間 | 就労時間内(賃金の支払い対象) | 就労時間外の講習等の場合、参加は任意 |
教育にかかる費用については、基本的には施設が負担することになりますが、国による助成制度も設けられています。EPA候補者の受け入れ施設は、教育にかかる費用だけでなく、学習時間の確保にも配慮しなければならず、就労時間や休日の調整などが必要となります。教育の提供方法には複数の選択肢がありますが、いずれの場合においても、候補者に多額の費用を負担させることはできません。
留学
留学生については、直接福祉専門学校へ入学するルートと、日本語学校を経て、福祉専門学校に入学するルートがありますが、いずれの場合も、在学中からアルバイトとして介護施設で働き、卒業後は正社員として同じ施設で勤務するという留学生が多いようです。これまでは、福祉専門学校を卒業すれば介護福祉士の資格を取得することができましたが、令和9年4月以降に卒業する留学生については国家試験受験が必須となります。それまでの経過措置として、平成29年4月から令和9年3月までに卒業する留学生については、卒業後5年間は国家試験を受験しなくても、あるいは受験し不合格だったとしても介護福祉士になることができます。その場合、この5年の間に国家試験に合格するか、あるいは卒業後5年間継続して介護業務に従事することで、介護福祉士として登録し、その資格を維持することができます。いずれにしても、令和9年4月以降は、国家試験に合格しなければ、介護福祉士として就労することはできなくなります。
特定技能
特定技能外国人は最長5年間日本で就労することができます。その間、受け入れ施設には日本語教育や介護教育を実施する義務はありません。もちろん受け入れ施設が教育を実施したり、外国人介護士が個人的に勉強したりすることもありますが、すべて任意です。
その5年を超えて就労することを希望する場合には、介護福祉士国家試験に合格し、介護福祉士として登録しなければなりません。そのため、国家試験へ向けた対策が必要となりますが、その対策についても任意となります。
技能実習
技能実習生については入国前後の講習は義務となっていますが、施設派遣後の教育については任意となります。技能実習生として介護業務に従事できる期間は最長5年(技能実習1号〜3号)となります。しかし、技能実習2号から3号への移行は、実習生のみならず、受け入れ施設と監理団体に対する要件も厳しくなり、ハードルが高くなることから、2号修了時点を区切りとする場合が多いようです。その後、受け入れ施設と実習生双方が継続就労を希望する場合には「特定技能1号」へと移行することができます。そうすることで、さらに最長5年間就労することができるようになります。その間に介護福祉士国家試験に合格し、介護福祉士として登録すれば、在留資格「介護」として期間の制限なく働くことができます。
受け入れ準備と課題
ここまで解説してきたように、就労開始後に日本語や介護教育が義務づけられているのはEPAのみとなり、その他3つの制度においては、就労開始後の教育は任意となります。しかしながら、EPA、特定技能および技能実習制度においては、期間の制限なく就労できる「介護」の在留資格をめざすのであれば、国家試験合格が必須となります。留学生についても、令和9年4月以降は国家試験に合格しなければ「介護」の在留資格を取得することができなくなります。
介護福祉士実務者研修
介護福祉士国家試験の受験資格は、3年以上の介護の実務経験、そして「介護福祉士実務者研修」修了となります。ここで外国人介護士にとって壁となるのが、この実務者研修です。
現在は、ふりがな付きテキストや補助教材を用意するなど、外国人介護士を対象とした実務者研修を実施している研修機関も増えてきています。とはいえ、JLPTのN3程度、しかも仕事をしながら研修に参加する外国人介護士にとっては決して容易な研修とはいえません。そして実務者研修を修了すると、いよいよ国家試験です。試験内容も日本語も、ハードルはさらに高くなります。外国人介護士はすでに実務経験を積んでいますので、実技や日常業務に関する内容はわかっていますが、それを日本語で出題され、その質問内容を読み取るとなると話は別です。さらに、日本人にとっても難解な「社会の理解」分野の問題については、外国人介護士の出身国にはない制度について、日本語で理解する必要があり、困難を極めます。
介護福祉士国家試験
介護福祉士国家試験について、技能実習生および特定技能外国人の合格率は明らかにされていませんが、2024年1月に実施された第36回介護福祉士国家試験における、日本人を含む全体の合格率は82.8%でした。EPA介護福祉士候補者については、全体の合格率は43.8%でした。
国別では、ベトナム86.4%、インドネシア22.2%、フィリピン21.3%となっています。注目すべきはベトナム人候補者の合格率の高さですが、筆者のEPA候補者への日本語・介護指導経験から推測するに、ベトナム人候補者の日本語能力の高さにあると考えられます。ベトナムでの訪日前研修は1年間とされており、入国時点ですでにJLPTのN3に合格しています。
一方、インドネシアとフィリピンの訪日前研修は6ヶ月であり、JLPTのN5〜N4で入国してきます。こうした状況下、ベトナム人候補者については、訪日後研修において比較的スムーズに介護教育を導入することができます。その一方で、施設派遣時にJLPTのN4程度のフィリピン人候補者は、介護教育の導入時点で、介護知識の理解以前に、日本語で苦戦する候補者が多い印象です。そのため、日本語学習により多くの時間が必要となります。その間、ベトナム人候補者たちは国家試験対策に集中することができます。
このように、国家試験受験を視野に入れて外国人介護士を受け入れるのであれば、事前教育の段階で日本語教育および基礎的な介護知識の導入をしておくことが望ましいです。とはいえ、現状、それができる状況はかなり限られています。そこで、入国後であっても、できるだけ早い段階で日本語能力向上へ向けた取り組みをされることをお勧めします。
介護の日本語教育
さて、その日本語教育ですが、現地での事前教育であれば学習だけに集中できる環境にありますが、日本での仕事が始まってしまうと、仕事が優先になるため、学習時間を確保することすらむずかしくなります。加えて、「日本語学習=JLPT受験対策」と考えている施設や外国人介護士も少なくありません。休憩時間や勤務終了後に、“とりあえず”JLPTへ向けた受験勉強をしています。しかしながら、JLPT受験へ向けた日本語学習は、介護福祉士国家試験に必要な日本語には直結しない部分が大きいです。限られた時間のなかで、JLPTではなく国家試験受験に対応する日本語学習を実施するためには、日本語教育の内容や実施方法について、受け入れ前に検討しておく必要があるでしょう。
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国籍:ベトナム・ネパール
業種:外食、介護