JLPTの資格や練習してきた自己紹介だけでは、その人が本当に良い介護士になれるかなんて、分かりませんよね。採用した後の「こんなはずじゃなかった…」を防ぐには、面接で候補者の日本語力の奥にある「介護士としての適性」を見抜く必要があります。この記事では、そのための具体的な質問と考え方を、筆者が経験したリアルな失敗談と共にご紹介します。なぜ「普通の面接」ではダメなのか?練習された自己紹介と、本当の実力数年前、あるベトナム人女性のオンライン面接に立ち会いました。履歴書には「ベトナムでの介護実務経験あり」「JLPT N4合格」とあり、面接での自己紹介も、事前に準備してきたことが分かる、とても流暢なものでした。受け答えも明るく、採用はスムーズに決まりました。しかし、彼女が来日し、私が入国後講習を担当した時、その現実に愕然としました。彼女は、私の話す日本語をほとんど理解できず、ひらがなの読み書きもおぼつかないレベルだったのです。オリエンテーションはもちろん、日本語の授業でさえ、同期のベトナム人に通訳してもらわなければならないほどでした。 「面接の時の、あの日本語能力は一体何だったのか…」正直、この時点では採用のミスマッチを疑いました。面接で本当に見るべきこととは?講習を終えてから数ヶ月後、私は彼女が配属された介護施設を訪ねました。そこで目にしたのは、またしても信じられない光景でした。あれほど日本語に苦労していた彼女が、同期のベトナム人職員たちのリーダー役となり、日本人職員と身振り手振りを交えながら、実に生き生きと働いていたのです。別人かと思うほどでした。施設の責任者に話を聞くと、「最初は日本語が通じなくて大変だった」とのこと。しかし、彼女は驚くべきスピードで仕事を覚え、あっという間に同期に仕事のやり方を教えるまでに成長したというのです。母国での実務経験が、言葉の壁を越えさせたのでしょう。今では、日本人職員からもベトナム人職員からも、絶大な信頼を得ている、と。この時、私は初めて気づかされました。彼女が、この介護という仕事を本当に愛していたこと、そして、経験に裏打ちされた確かな実践力を持っていたことを。この経験が、私の面接に対する考え方を180度変えました。面接で見るべきは、流暢に暗記してきた日本語ではなく、その人の内面にある介護士としての「適性」なのだと。次の章からは、この「適性」とは具体的に何なのかを定義し、それを見抜くための方法を解説していきます。介護職の「適性」とは?面接で見抜くべき5つの資質外国人介護士の採用で最も重要なのは、表面的な日本語能力の奥にある、介護職としての「適性」を見抜くことです。では、その「適性」とは具体的に何なのでしょうか。私たちは、それを以下の5つの資質に分解して考えています。この5つの視点を持つことで、面接の質は劇的に向上し、採用後のミスマッチを大幅に減らすことができます。1. 共感力:相手の立場に立って考えられるか介護における共感力とは、単に「優しさ」を意味するものではありません。言葉でうまく伝えられない利用者様の痛みや不安、喜びを、その方の立場に立って想像する力です。例えば、いつも穏やかな利用者様が、ある日急に落ち着きなくされていたとします。これ単なる「問題行動」と捉えるのではなく、「どこか痛いのかな?」「何か不安なことがあるのかな?」と、その行動の裏にある背景を想像しようとする姿勢こそが、質の高いケアの第一歩となります。2. 忍耐力・ストレス耐性:困難な状況にどう向き合うか介護の仕事は、体力的にも精神的にも、決して楽な仕事ではありません。特に、認知症の利用者様から何度も同じ質問をされたり、時には理不尽な言葉を投げかけられたりすることもあります。そうした困難な状況に直面した時でも、感情的にならず、プロとして冷静かつ穏やかに対応できるのが忍耐力です。これは、長期的に介護の仕事を続けていく上で、最も重要な資質の一つと言えるでしょう。3. 倫理観:利用者様の尊厳を守る意識があるかこれは、介護という仕事における「根幹」です。利用者様がどのような状態であっても、一人の人間としての尊厳を絶対に守る、という強い倫理観が求められます。例えば、利用者様のプライベートな情報をむやみに他人に話さない、排泄介助の際には羞恥心に最大限配慮する、といった行動にその意識は現れます。「仕事だから」という意識だけでなく、人として当たり前の敬意を払えるかどうかは、必ず確認すべきポイントです。4. 観察力:言葉にならないサインを読み取れるか利用者様は、ご自身の体調の変化や心の状態を、必ずしも言葉で伝えてくれるわけではありません。むしろ、言葉にならないサインの方が多いくらいです。「いつもより食事量が少ない」「立ち上がる時に少し顔をしかめた」といった、日常の中の小さな変化に気づけるか。この観察力は、利用者様の体調の急変を未然に防いだり、隠れたニーズを発見したりするために不可欠なスキルです。5. 学習意欲:新しい知識や技術を学ぶ姿勢があるか介護の技術や知識は、日々進歩しています。また、日本と母国とでは、介護に対する考え方や文化も異なります。「自分のやり方」に固執せず、日本の介護の良いところを積極的に学び、常に自分のスキルを向上させようとする謙虚な学習意-欲があるか。この資質は、特に外国人材が日本で「伸びる」ための、非常に重要なポテンシャルとなります。【資質別】外国人介護士の本質を見抜く戦略的質問集「5つの資質」は、通常の質問ではなかなか見えてきません。大切なのは、候補者が過去の経験を思い出し、自分の頭で考え、自分の言葉で語るような「状況設定質問(シチュエーションクエスチョン)」を投げかけることです。ここでは、それぞれの資質を見抜くための質問例と、回答のどこに注目すべきかのポイントをご紹介します。①「共感力」を測る質問例質問例1「新しく施設に入居された利用者様が、夜になると『家に帰りたい』と泣いています。あなたなら、まず何と声をかけますか?」質問例2「食事の時間に、ある利用者様が嫌いなおかずをずっと残しています。あなたならどう対応しますか?」チェックポイント ただ「泣かないでください」と行動を制止したり、「栄養のために食べてください」と正論を伝えたりするだけの回答ではないか。「寂しいのですね」「このおかずは、お口に合いませんでしたか?」のように、まず相手の気持ちを理解しようとする姿勢があるかどうかに注目します。②「忍耐力・ストレス耐性」を測る質問例質問例1「あなたが忙しく他の作業をしている時に、ある利用者様から何度もナースコールで同じことを頼まれました。どう対応しますか?」質問例2「介護の仕事で、最も大変だと思うことは何ですか?もしそのような場面になった時、あなたはどうやって自分の気持ちを落ち着かせますか?」チェックポイント イライラした様子を見せず、冷静に対応しようとする姿勢があるか。また、ストレスへの対処法として、「一度深呼吸をする」「他のスタッフに少しだけ助けを求める」など、自分なりの具体的な方法を持っているかどうかが、長く仕事を続ける上で重要になります。③「倫理観」を問う質問例質問例1「もし、同僚のスタッフが利用者様の失敗を、他のスタッフがいる前で笑いながら話しているのを見たら、あなたはどうしますか?」質問例2「利用者様の家族から、個人的にお礼としてお金(プレゼント)を渡したいと言われました。どう対応しますか?」チェックポイント 「同僚との関係が悪くなるから何もしない」といった回答ではなく、利用者様の尊厳を守ることを最優先に行動しようとするか。「それはご本人が傷つくのでやめましょう」と注意する、あるいは上司に報告するなど、プロとして正しい行動を選択できるかを見極めます。④「観察力」を測る質問例質問例1「いつもは食欲旺盛な利用者様が、その日はあまり食事に手をつけませんでした。あなたは何に注意して、その後どうしますか?」質問例2「レクリエーションの時間に、いつもは参加している利用者様が、一人だけ輪から離れて座っています。あなたならどうしますか?」チェックポイント 「声をかける」だけで終わらず、「表情はどうか?」「顔色が悪くないか?」「何か痛いところはないか?」など、複数の可能性を考えて観察しようとする姿勢があるか。そして、その気づきを「看護師やリーダーに報告する」という、チームへの連携意識に繋げられるかどうかが重要です。⑤「学習意欲」を確認する質問例質問例1「日本語の勉強で、一番難しいことは何ですか?それを克服するために、今どんな工夫をしていますか?」質問例2「介護の仕事で、これから新しく学んでみたい知識や技術はありますか?」チェックポイント 「頑張ります」といった精神論ではなく、具体的な行動を語れるか。「毎日日本のニュースを見ています」「認知症ケアについてもっと勉強したいです」など、自ら学ぶためのアクションを起こしている、あるいは起こそうとしている人材は、入社後の成長が非常に期待できます。面接官が注意すべきこと・聞いてはいけないNG質問これまで、候補者の本質を見抜くための戦略的な質問をご紹介してきました。しかし、どんなに良い質問を用意しても、面接官の姿勢や、たった一つの不適切な質問が、築き上げた信頼関係を壊してしまうことがあります。ここでは、面接を成功に導くために、面接官自身が注意すべき心構えと、法律や文化的な観点から避けるべきNG質問について解説します。候補者が安心して話せる雰囲気づくり候補者の本音を引き出すには、まず「この人には安心して話せる」と感じてもらうことが何よりも重要です。特に、慣れない外国語での面接は、候補者にとって非常に大きなストレスがかかります。以下の点を意識するだけで、面接の雰囲気は大きく変わります。ゆっくり、はっきり、簡単な言葉で話す 専門用語や持って回った言い方を避け、「やさしい日本語」を心がけましょう。一つの質問に多くの内容を詰め込まず、簡潔に問いかけることが基本です。笑顔と相槌を意識する 言語の壁があるからこそ、非言語コミュニケーションが重要になります。穏やかな表情で、相手の目を見てうなずきながら話を聞くことで、「あなたの話を真剣に聞いていますよ」というメッセージが伝わり、候補者の安心感に繋がります。沈黙を恐れない 質問に対して、候補者がすぐに答えないことがあります。それは、頭の中で必死に母国語から日本語へ翻訳している時間かもしれません。焦らせずに、じっくりと待つ姿勢が、かえって相手の深い考えを引き出すことに繋がります。宗教や国籍に関するNG質問業務に関係のない、個人のアイデンティティや信条に関する質問は、法律で禁止されている就職差別に繋がりかねないため、絶対に避けなければなりません。NG質問例OKな確認方法国籍・人種「〇〇国の方は、時間にルーズだと聞きますが、あなたは大丈夫ですか?」(個人の経験として)「チームで仕事をする上で、時間を守ることをどう考えますか?」宗教「あなたの宗教は何ですか?」 「神様を信じていますか?」(配慮の確認として)「食事やお祈りなどで、会社として何か配慮が必要なことはありますか?」政治「〇〇国と△△国は仲が悪いですが、あなたはどう思いますか?」(この種の質問は一切行わない)重要なのは、「変えられない属性(国籍など)」や「個人の信条(宗教など)」を問うのではなく、仕事をする上での「価値観」や「必要な配慮」を確認するという視点です。この一線を守ることが、トラブルを未然に防ぎ、企業の信頼性を保つ上で不可欠です。まとめ外国人介護士の採用面接は、日本語能力を測るテストではありません。それは、言葉の壁の向こう側にある、候補者が持つ「介護士としての心」—すなわち優しさや誠実さ—を見つけ出すための対話です。この記事でお伝えした「5つの資質」という視点が、表面的なスキルに惑わされず、貴社にとって最高の仲間を見つけるための、確かな判断基準となるはずです。TCJグローバルでは、企業が求める人材の日本への就労支援も行っております。また、業界別日本語フォローや受け入れ企業向けの社内研修も提供し、スムーズな労働環境の整備をサポートします。外国人材の採用をお考えの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。