外国人社員が増える中、日常会話には支障がなくとも、業務指示となると誤解が生じてしまう、そんな経験をしている日本人社員も多いのではないでしょうか。その背景には、外国人社員の日本語力はもちろん、日本人特有の「察する文化」が深く関係していることがあります。本記事では、日本人のコミュニケーションスタイルの特徴である「高コンテクスト文化」についておさらいした上で、外国人社員にも明確に伝わる「日本語の指示表現」を、実践例を交えてご紹介します。世界有数の「言わなくてもわかる文化」を好む日本人高コンテクスト文化とは「高コンテクスト文化」とは、言葉にされていない前提や相手の立場、関係性など、文脈を読み取って理解することが求められる文化を指します。いわゆる「行間を読む文化」で、日本はその典型です。対照的に、アメリカやカナダ、ドイツをはじめとする国々は「低コンテクスト文化」で、明確な言語化がコミュニケーションの大前提です。良いコミュニケーションとは、シンプルで明確であることであり、相手が言ったことを文字通り、そのまま受け取ります。想像する以上に日本人の指示は曖昧歴史的に見ても島国である日本は、基本的には閉鎖された環境で、多くを語り合わなくともわかりあえる独自の文化を培ってきました。それに対して、アメリカやヨーロッパ諸国は、異文化交流が盛んで、文化的な背景が異なる相手とコミュニケーションする際には、誤解が生じないよう、明確な表現が必要だったのです。この文化の違いは、ビジネスシーンにおいては、無視できない重要なポイントです。日本人にとってはごく当たり前の指示が、外国人社員にとっては非常に抽象的な指示である、ということは、往々にしてありえるのです。実践!「伝わる日本語」で指示を出そうそれでは具体的に、日本人が職場でよく使いがちな7つの表現を見てみましょう。実はこれらの表現は、外国人社員にとって、非常に曖昧な表現です。実践例を見る前に、まずは以下の表現をどのように言い換えるか考えてみてください。 【日本人が使いがちな表現】1.やっておいてもらってもいいかな。2.進捗報告して。3.これ、あとでお願い。4.そのへんは適当に。5.この間のあれ、どう?6.まあ、悪くはないんだけど...。7.もうちょっと頑張ってもらいたいんだけど。【伝わる言い換え表現】①やっておいてもらってもいいかな。[言い換え]やってください。【解説】日本人は無意識のうちに、相手を思いやって、丁寧に依頼する表現を選びがちです。しかし、外国人社員にとっては、初級レベルで学ぶ「〜してください」を使って指示されたほうが、わかりやすいのが事実。少しストレートすぎるかな、と感じるかもしれませんが、外国人社員に指示する際は、「〜してください」を基本にしましょう。② これ、あとでお願い。[言い換え]◯時までに、〜してください。【解説】日本人同士のコミュニケーションでよく使うこのフレーズも、外国人にとっては非常に曖昧です。「これ」とは何か、「あとで」とはいつか。受け手によって解釈が分かれる表現であるため、具体的な期限と作業内容を明確に指示しましょう。③ そのへんは、適当に。[言い換え]〜については、〜してください。【解説】日本人にとっても「適当に」という言葉は、非常に曖昧な表現です。にも関わらず、忙しいビジネスシーンでは、つい使いがちではないでしょうか。外国人社員に対しては、仮に自由度を与える場合であっても、最低限の判断基準や例を示しましょう。また「これ」「それ」などの「こそあど言葉」は、できるだけ具体的に言及し、誤解を避けましょう。④ 進捗報告して。[言い換え]◯日の◯時に、どこまで終わったか、話しに来てください。【解説】外国人社員の日本語レベルによっては、そもそも「進捗報告」という言葉の意味を理解していないケースもあります。また、言葉の意味はわかっていたとしても、指示を出した人が具体的に何を求めているかは、外国人社員には理解できない、と考えたほうがトラブルを避けられます。「いつ」「何を」「どのように」報告すべきか明示しましょう。⑤ この間のあれ、どうなった?[言い換え]先週◯曜日に話した〜の件、どこまで終わったか話してください。【解説】この表現もつい使いがちですが、省略や「こそあど言葉」により、外国人社員にとっては、理解が難しい表現です。「この間」は具体的な日時に、「あれ」は具体的なトピック名に置き換えましょう。また「どうなった?」も、「どこまで終わりましたか」や「もうメールをしましたか」など、具体的な動詞を使って表現すると、わかりやすく伝わるでしょう。⑥ まぁ、悪くはないんだけど...。[言い換え]〜を変えてください。【解説】日本人は、問題点を指摘し改善を依頼する際、受け取り側の心情を想像し、ストレートでない表現を使う傾向があります。ですが、このやわらかさが、外国人社員にとっては「結局、何を言いたいのかわからない」という事態を引き起こしがちです。ここは、日本人的感覚を一旦横において、期待している内容をはっきりと伝えましょう。⑦ もうちょっと頑張ってもらいたいんだけど。[言い換え]〜の基準で、〜してください。【解説】日本人が子どもの頃からずっと慣れ親しんできた「頑張る」という言葉は、ビジネスシーンでは要注意の言葉です。努力や感情に訴える表現ではなく、具体的な成果の基準と行動を、はっきりと伝え、外国人社員のアクションを促しましょう。まとめ外国人社員との円滑なコミュニケーションには、文化的背景の違いを理解したうえで、「明確で具体的な言語化」が欠かせません。日本人が好む相手を思いやったやわらかい表現も大切ですが、外国人社員に対する業務指示においては誤解のない伝え方を意識することが、チーム全体の成果にもつながります。今一度、指示の出し方を振り返り、「伝わる日本語」を実践してみてはいかがでしょうか。株式会社TCJグローバルでは、即戦力となる外国人材の育成に力を入れています。日本語教育やビジネスマナー研修を提供し、外国人社員がスムーズに職場に適応できるようサポートします。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修を実施し、外国人労働者を円滑に受け入れるための社内体制づくりを支援しています。また、企業様のニーズに応じた人材紹介を行い、外国人社員の定着と活躍を幅広くサポートします。外国人材の採用や定着に関するご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください。著者紹介:福田 祥子(日本語教師・ライター)大手教育系企業で英語講師養成トレーナーとしてキャリアをスタートし、その後広報職に転身。企業内ライターとして新聞コラムや書籍等の執筆を担当。語学好きが高じ、2020年より日本語教師として活動を開始。2022年のスペイン移住後は現地の日本語学校で教鞭を執るほか、TCJプライベート講師や日本語試験問題作成員、執筆業に従事。日本語教師養成講座420時間修了、日本語教育能力検定試験合格。